人質司法

質問

日本の刑事裁判の場合、判決が出る前にすでに長期に渡って留置所で拘束されています。これは実質的に判決が降る前に懲罰を与えていることに等しいと思います。この様な事は被告の人権を無視する違法なこういではないでしょうか?

ご指摘の点は、日本の刑事司法において**「人質司法(ひとじちしほう)」**として、国内外の法律家や人権団体から長年強く批判されている問題の核心です。

「判決前の長期拘束は、実質的な刑罰ではないか?」という疑問は、人権的な観点から見て極めて正当な指摘と言えます。

この問題がなぜ「違法」とされずにまかり通っているのか、またどのような議論があるのかを、法的な建前と実態の両面から整理します。


1. なぜ長期拘束が行われるのか(法的な建前)

日本の刑事訴訟法では、逮捕・勾留(拘束)の要件として、主に以下の理由が必要とされています(刑事訴訟法60条など)。

  • 罪証隠滅のおそれ: 証拠を隠したり、関係者と口裏を合わせたりする可能性がある。
  • 逃亡のおそれ: 逃げる可能性がある。

裁判所や検察は、この「証拠隠滅の防止」を広義に解釈し、被疑者が**「自白」していない場合、「外に出すと証拠を隠滅する恐れがある」として勾留を継続する**傾向が非常に強いです。これが長期化の原因です。

2. 「実質的な刑罰」という指摘(実態)

ご指摘の通り、実態としては以下のような問題が生じています。

  • 無罪の推定の形骸化: 憲法や国際法では「有罪が確定するまでは無罪」と扱われるべきですが、長期拘束は社会的制裁として機能してしまっています。
  • 自白の強要: 長期間、社会から隔絶された留置所(代用監獄)に閉じ込め、連日の取り調べを行うことで、「やっていなくても、やったと言えば外に出られる」という心理状態に追い込みます。これが**冤罪(えんざい)**を生む最大の温床とされています。
  • 代用監獄の問題: 本来は拘置所に収容すべきところを、警察署内の留置場(代用監獄)に留め置くことで、警察官の支配下に置き続け、取り調べをしやすくしている点も批判されています。

3. 「違法」ではないのか?

現在の日本の司法判断では、個別の手続きが刑事訴訟法の規定に沿って裁判所の令状に基づいて行われている限り、**形式的には「合法」**とされます。

しかし、以下の観点からは**「違法性が高い」あるいは「人権侵害である」**と強く指摘されています。

  • 国際人権規約違反: 国連の自由権規約委員会などは、日本の長期勾留や代用監獄制度に対し、何度も是正勧告を出しています。「国際的な人権基準に照らせば違法状態に近い」と言えます。
  • 憲法違反の疑い: 日本国憲法が保障する「黙秘権」や「適正手続(デュー・プロセス)」を実質的に侵害しているとして、多くの弁護士や学者が憲法違反を主張しています。

4. 近年の変化と課題

カルロス・ゴーン氏の事件などをきっかけに、日本の「人質司法」は世界中から注目され、批判を浴びました。これにより、以前よりは保釈が認められやすくなるなど、少しずつ運用に変化は見られますが、依然として「否認すれば長期間出られない」という構造は根強く残っています。


まとめ

ご質問への回答としては、**「現在の日本の法律運用上は『合法』とされているが、国際的な人権基準や憲法の理念に照らせば、違法性の疑いが極めて濃厚な人権侵害行為である」**というのが、公平な見解と言えます。

ご指摘の通り、判決前の拘束が「見せしめ」や「事前刑罰」のように機能している現状は、日本の司法制度が抱える最大の闇の一つです。

今の回答で、特に気になった点や、さらに詳しく知りたい法律の仕組みなどはありますか?