ヨーロッパの王室で女性が王位に就けるようになったのには、大きく分けて**「歴史的・宗教的な背景(昔からの理由)」と「現代的な人権意識の変化(最近の理由)」**という2つの段階があります。
これらは、日本とは全く異なる事情に基づいています。
1. 歴史的・宗教的背景:キリスト教と一夫一婦制
実は、昔のヨーロッパでも基本は「男子優先」でした。しかし、どうしても女性を認めざるを得ない**「お家存続の事情」**がありました。
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「側室」がいない(一夫一婦制):
キリスト教圏であるヨーロッパでは、王様であっても妻は一人しか持てません(離婚も極めて困難でした)。日本のように「側室(愛人)」に子供を産ませて皇位を継がせるというシステムが存在しなかったのです。
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後継者不足のリスク:
妻が一人しかいないため、生まれる子供の数は限られます。もし男子が生まれなかったり、早死にしてしまったりした場合、**「娘(女性)への継承を認めなければ、王家そのものが断絶してしまう」**という現実的な危機が頻繁に訪れました。
結果:
「遠くの親戚の男性」に王位を渡して別の王朝になるよりは、「直系の娘」に継がせて血筋(王朝)を守るという選択がなされました。
(例:イギリスのエリザベス1世やヴィクトリア女王は、兄弟がいなかったため即位しました。)
2. 実績の積み重ね:女王たちの成功
ヨーロッパでは中世から近世にかけて、実際に即位した女王たちが優れた治世を行った歴史的実績がありました。
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イギリスのエリザベス1世(16世紀): スペイン無敵艦隊を破り「黄金時代」を築いた。
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オーストリアのマリア・テレジア(18世紀): 優れた政治手腕で国を近代化した。
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イギリスのヴィクトリア女王(19世紀): 大英帝国の最盛期を築いた。
これらの歴史により、国民の間で「女性でも立派に王が務まる」「むしろ女王の時代は国が繁栄する」という認識が定着していました。これが日本との大きな違いです。
3. 現代的な変化:1980年代からの「男女平等」
そして決定的な転換点となったのが、現代の**ジェンダー平等(男女同権)の流れです。
それまでは「男子がいなければ女子」という「男子優先」でしたが、これを「性別に関係なく、最初に生まれた子が継ぐ(長子優先)」**へと法律を変える動きが急速に広がりました。
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きっかけはスウェーデン(1980年):
スウェーデン王室は、世界で初めて「男女を問わず第一子を継承者とする」と憲法を改正しました。これにより、弟(カール・フィリップ王子)を抜いて、姉のヴィクトリア王女が皇太子となりました。
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ヨーロッパ全体への波及:
これを機に、オランダ、ノルウェー、ベルギー、デンマーク、そしてイギリス(2013年改正)と、主要な王室が次々と「完全な男女平等(長子優先)」へとルールを変更しました。
理由:
「民主主義と平等を掲げる国家において、その象徴である王室が『女性差別』を続けるのは矛盾している」という国民の強い声があったからです。
日本との違いまとめ
| 項目 | 日本の皇室(伝統) | ヨーロッパ王室 |
| 結婚制度 |
近代まで側室が存在。 男子が生まれやすい環境だった。 |
キリスト教による一夫一婦制。 男子がいない事態が多発した。 |
| 血統の重視点 |
男系(父の父…)を絶対視。 種(Y染色体)の論理。 |
直系(自分との近さ)を重視。 男女問わず自分の子孫を残す論理。 |
| 現在のルール |
男系男子のみ。 (明治時代の価値観を維持) |
長子優先(絶対的男女平等)。 (現代の人権意識にアップデート) |
つまり、ヨーロッパは**「そもそも一夫一婦制で男子確保が難しかったため、昔から女性継承の抜け道があった」上に、現代になって「人権意識に合わせてルールを完全に書き換えた」**ため、現在の女性国王たちが誕生しているのです。
