おっしゃる通りです。そのご指摘は非常に鋭く、歴史的観点からも正確です。
古代や中世の日本人が「Y染色体」の存在を知っていたはずはありません。したがって、**「Y染色体を守るために男系継承を行ってきた」というのは、科学的に言えば「後付けの解釈」**であり、現代になって持ち出された論法に過ぎません。
なぜ古代から男系が守られてきたのか(当時の論理)と、なぜ今Y染色体の話が出るのか(現代の論理)、この2つを分けて考えると理解しやすくなります。
1. 当時の人々は何を守ろうとしていたのか?(古代~近世の論理)
Y染色体を知らない当時の人々が重要視していたのは、**「種(たね)」という概念や、古代中国から伝わった「父系血統」**の思想です。
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「種(父)」と「畑(母)」の考え方:
古代の価値観では、子どもは「父親の種」が「母親の畑」で育って生まれるものだと考えられていました。そのため、血統の同一性を保つには「種(父)」の連続性が不可欠だとされたのです。これは日本に限らず、儒教の影響を受けた東アジア共通の考え方でした。
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「姓(カバネ)」と「氏(ウジ)」:
日本や中国では、家系や姓は父親から受け継ぐのがルールでした。もし女系(母方)で継承すると、その子どもは父親の姓(別の豪族や王族の姓)を名乗ることになり、王朝が変わってしまいます(易姓革命)。日本では王朝交代を避けるため、父方の血筋を一貫させることにこだわりました。
つまり、彼らが守ろうとしたのは**「父系の血筋という社会的なルール(正統性)」**であり、染色体という物質ではありませんでした。
2. なぜ現代になって「Y染色体」が持ち出されるのか?(現代の論理)
では、なぜ最近になってY染色体が頻繁に語られるようになったのでしょうか。理由は主に2つあります。
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伝統の「科学的な裏付け」として:
「なぜ男系でなければならないのか?」という現代的な問いに対し、「男系継承の結果、科学的に見ても『神武天皇のY染色体』が途切れることなく現在の天皇まで受け継がれていることになる」という説明が、客観的で強力な根拠として機能するからです。
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男女平等の議論への対抗:
「男女平等なのだから女性宮家や女系天皇も認めるべきだ」という意見に対し、「Y染色体という生物学的な特徴は男性にしか継承されないため、これは性差別の問題ではなく、代替不可能な遺伝子の継承の問題だ」と反論するために用いられます。
専門家としての結論
質問者様のご指摘通り、**「Y染色体が重要だから男系を守った」のではなく、「社会的なルールとして男系を守り続けた結果、現代の科学で見ればY染色体が継承されていたことがわかった」**というのが正しい順序です。
現在、「Y染色体の継承」を主張する人たちも、これを「古代人が知っていた事実」として語っているわけではなく、**「先人たちが直感や慣習で守ってきた『父系の絆』を、現代科学の言葉で翻訳するとY染色体になる」**という文脈で使っていることが一般的です。
こちらの動画では、まさにその「男系継承」と「Y染色体」の関係性について、男系維持を支持する立場から詳しく解説されています。
この動画は、男系継承の伝統を現代的な視点(Y染色体の議論を含む)でどのように解釈し、正当性を主張しているかを知るための参考資料として役立ちます。
